名古屋高等裁判所 昭和43年(う)370号 判決 1969年9月25日
主文
本件各控訴を棄却する。
理由
本件各控訴の趣意は、弁護人朽名幸雄、同旦良弘連名の控訴趣意書に記載するとおりであるから、ここにこれを引用する。
一、控訴趣意第二について
所論は、要するに、実用新案法第五六条一項違反の罪は親告罪であるところ、告訴権者は、犯人を知つた日から六箇月以内に告訴しなければならないから、株式会社岡村製作所による昭和三七年一〇月三一日付本件告訴は、告訴期間経過後になされた無効のものである。すなわち、被告人青山謁夫については、同被告人が代表取締役である株式会社アイコが本件椅子を販売している事実を告訴人において知り、犯人を覚知して通告書を作成発送したと認められる昭和三六年一〇月三日から告訴期間を起算すべきであり、被告人青山伊右兵衛門については、同被告人が代表社員である合資会社青山鉄工所が本件椅子を製造し、株式会社アイコがこれを販売していることを知り、告訴人と前同会社との間の折衝を経て、犯人を覚知したうえ通告書を作成発送したと認められる昭和三六年一〇月三日(第一回通告書)、または遅くとも、昭和三七年四月四日(第二回通告書)から起算すべきであるから、本件告訴は、いずれも、明らかに六箇月の告訴期間を徒過した後になされた無効のものである。従つて本件公訴は、適法な告訴なくして提起されたものとして棄却されるべきであるから、原判決には、不法に公訴を受理した違法がある、というのである。
しかしながら、刑訴法二三五条一項にいう「犯人を知つた日」は、犯罪行為終了後の日を指すものであり、告訴権者が、犯罪の継続中に犯人を知つたとしても、その日を親告罪における告訴の起算日とすることはできないものと解するのが相当であるところ、本件は、原判示のとおり、原判示第一の犯行は、昭和三六年一〇月一二日頃から昭和三七年七月三一日頃に至るアイコA50型、A80型スチール椅子の製造行為であり、原判示第二の犯行は、昭和三六年一〇月一二日頃から昭和三七年八月三一日頃に至る右椅子の販売行為であり、しかも、これら営業的、継続的製造或は販売行為をそれぞれ包括して本件各実用新案権侵害の所為の対象としてとらえるものである以上、右各所為の終了時点は原判示第一については昭和三七年七月三一日頃原判示第二については昭和三七年八月三一日頃とすべく、本件において、告訴権者である株式会社岡村製作所が、被告人らの前記各所為終了前に犯人を知つたとしても、右所為終了時点から各告訴期間の進行が始まるものといわざるを得ず、従つて、昭和三七年一〇月三一日付の本件告訴は、適法な告訴期間内になされたものとしてもとより有効な告訴なること明らかである。所論は、これに反して、告訴期間の起算点につき独自の見解に立脚するものであつて、失当といわねばならない。論旨は理由がない。
(その他の理由は省略する。)